生命保険金請求権は相続に含まれるか

相続のご相談において、生命保険金について次のようなご質問を頂くことが多くあります。

 

故人(以下の「被相続人」と同様です。)には財産がほとんど残されていませんでしたが、故人を被保険者とする生命保険が掛けられていました。保険金受取人は私に指定されていますが、他にも相続人が複数います。この生命保険金は、保険金受取人に指定されている私が全額受け取ってよいものでしょうか。それとも、相続人で分けなければいけないものでしょうか。

 

相続とは、ある人が死亡した場合に、亡くなった人(被相続人)に属する相続財産が相続人に対して包括的に承継されるとの制度です(民法896条)。

そうすると、上記のご質問は、生命保険金(生命保険金請求権)が、被相続人に属する「相続財産」に含まれるかとの問題といえます。

この問題については、原則として、生命保険金は「相続財産」に含まれないため相続の対象ではなく、相続とは無関係に「保険金受取人」自身が持っている固有の権利であるとされています(最判昭和40年2月2日民集19巻1号1頁)。

したがって、ご質問のケースは、「保険金受取人」に指定されているご相談者様が、相続とは別に生命保険金を全額受け取ることが出来ます。

 

このように、「保険金受取人」に特定の相続人が記載されている場合にはご質問のケースのように整理できますが、実際の生命保険契約を見ると「保険金受取人」が記載されていないものなども見受けられます。

よく見受けられる「保険金受取人」の記載例ごとにこの問題を整理すると、次のとおりです。

 

1 「保険金受取人」に、特定の相続人が記載されている場合

 

 

相続人のうちの特定の人が「保険金受取人」として記載されている場合は、上記のとおり、生命保険金は「保険金受取人」の固有の権利であるとされています(最判昭和40年2月2日民集19巻1号1頁)。

すなわち、この場合、生命保険金はそもそも「相続財産」に含まれるものではなく、「保険金受取人」が自身の権利として全額を取得することが出来るので、相続人で分ける(遺産分割する)必要はありません。

したがって、ご相談のケースは、「保険金受取人」に指定されているご相談者様が、相続とは別に、生命保険金を全額受け取ることが出来ます。

 

2 「保険金受取人」に、「相続人」とのみ記載され、特定の相続人が記載されていない場合

 

この場合にも、1と同様に、原則として、生命保険金は相続財産に含まれず、「保険金受取人」が自身の権利として取得するものとされています(最判昭和40年2月2日民集19巻1号1頁)。

しかし、「保険金受取人」が「相続人」とのみ定められているため、相続人が複数いる場合には、どの相続人がどのような割合で取得するのかという問題が残ってしまいます。

これについては、特別の事情がない限りは、相続人は相続分の割合と同じ割合で、生命保険金を取得するものとされています(最判平成6年7月18日判時1511号138頁)。

 

(例)

Aさんが死亡し、相続人がAさんの子であるBさんとCさんの2名のみであり、BさんとCさんが1/2ずつ相続するという場合に、Aさんに掛けられていた生命保険金の保険金受取人が「相続人」とのみ記載されている場合

 

この場合には、BさんとCさんがそれぞれ相続としてではなく自分の権利として生命保険金を1/2ずつ取得することになります。

 

3 「保険金受取人」の記載がない場合

 

「保険金受取人」が指定されておらず記載されていない場合には、その生命保険契約の約款などの規定から判断することになります。

 

例えば、約款に「保険金受取人が指定されていないときは、相続人に支払います。」との条項がある場合には、「保険金受取人」が記載されていなかったとしても、「相続人」と記載されている場合と同じく考えるものとされており、2と同じ結論になります。

 

 

以上において「保険金受取人」の記載例をいくつか挙げましたが、生命保険契約の記載内容、請求する保険金の種類あるいは約款の規定などにより、必ずしも上記記載例のとおり整理出来ない場合があります。

このため、相続の際に生命保険金があった場合には、一度、ご相談にお越し頂き、保険契約の内容が記載されている保険証券や約款を直接確認させて頂く必要があります。

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