遺産分割の付随問題(葬儀費用)

「葬儀をしたはいいけれど…」葬儀費用が思わぬトラブルに。

 遺産分割において葬儀費用の負担にについてトラブルとなる場合がよくあります。その原因として、葬儀は亡くなってから間もないうちに執り行う必要があり、また亡くなった方の前で金銭的な話をすることも憚られるため、葬儀前に相続人間で十分な協議を行うことは難しいことが考えられます。

 もちろん、事前に葬儀費用に関する了承が取れなくても、遺産分割の際等に相続人間で葬儀費用の負担について合意ができれば、何ら問題が生じることはありません。

 しかし、一部の相続人において葬儀費用を立て替えたり、遺産の中から葬儀費用を支払った場合において、他の相続人が遺産の中から葬儀費用を捻出することを拒んだり、遺産から葬儀費用を支払ったことに対して相続分に応じた金銭請求を行ってくるなどしてトラブルになることも少なくありません。

葬儀費用について考え方

 葬儀費用は被相続人の死亡後に手配して発生した費用であり、香典も相続人の死後に贈られた金銭ですから、いずれも相続財産ではなく、原則として相続の対象にはなりません(民法896条)。

 先ほど述べたとおり、事後的に遺産分割協議で葬儀費用の分担について協議が成立すれば問題ありませんが、協議が成立しない場合、葬儀費用の負担者や香典の帰属主体等にかかる争いとして(※補足)、民事訴訟の手続きで争われることも考えられ、紛争の長期化が懸念されます。

今から準備できることがあります。

 残される相続人の間に争いを生じさせないためには、予め葬儀の内容や費用を決めておくことも有用です。

 例えば、死後事務委任契約において家族以外の専門家に葬儀の主宰のみならず、役所への手続、病院代等の清算、年金手続、クレジットカードの解約などを一任して葬儀費用も相続財産から先に支弁できるようにしておくことが考えられます。

 また、親族等信頼できる第三者との間で、葬儀費用相当額の現金を信託財産とする家族信託契約を締結し、自らの死後、受託者となった第三者が信託財産から葬儀費用を直接支払う旨契約で定めることで、葬儀費用を巡る親族間のトラブルを未然に回避することが可能です。

 以上のような対策は、今から講じることも可能ですので、ご不安な方はぜひご相談ください。

※補足

 大きく分けると4つの説があり、近時は①喪主負担説を採用する裁判例が相当数あります。

①喪主負担説(東京地判昭和61・1・28判時1222・79、名古屋高判平成24・3・29など)

②相続人負担説(東京高決昭和30・9・5 家月7 巻11号57頁など)。

③相続財産負担説(盛岡家審昭和42・4・12家月19巻11号101頁、東京地判平成24・5・29など)。

④慣習・条理説(甲府地判昭和31・5・29下民集7 巻5 号1378頁など)。

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