「任意後見制度を中心とした生前対策」 (後編)

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4 任意後見制度の利用方法

(1)将来型

判断能力が低下した後に任意後見人の保護を受けることのみを契約内容とする、最も基本的な形態です。

ただし、実際に任意後見の発効までの間に長期間が経過し、本人と受任者との関係が疎遠になることもあり得ます。そこで、ご本人の判断能力が十分なうちは、任意後見受任者との間で見守り契約(定期的に電話連絡や訪問を行ってもらう)を併用して、関係性が希薄化しないように努めることが有用です。

(2)移行型

ご本人の判断能力が十分なうちから、任意後見受任者に財産管理と見守りを行ってもらい、判断能力が低下した後に任意後見制度を開始する形態です。

ご本人の判断能力が十分なうちから財産管理を任せつつ、実際にご本人自らが管理方法を監督することによって、長期的、計画的な財産管理が可能といえます。

ただし、本人の判断能力が不十分になったにもかかわらず、任意後見監督人選任の申立てがなされず、受任者の財産管理を監督する人が事実上いなくなってしまうことがないよう、本人の判断能力が不十分になった場合には、受任者に任意後見監督人選任の申立てを義務付けておくと良いでしょう。

(3)即効型

軽度の認知症、知的・精神障害などの状態にある方が任意後見契約を締結した上で、判断能力が「不十分な状況」として直ちに任意後見監督人の選任を申し立てる形態です。

ただし、契約締結時にも契約締結のために必要な意思能力があったことを保証するため、予め医師の診断書を用意しておくことが安全といえるでしょう。

5 亡くなった後について

任意後見制度はあくまでご本人が生きている間の財産管理と生活の援助をサポートするものですから、任意後見人が死後の事務(葬儀の手配、遺品の引取り、死亡直前の医療費や介護費の支払など)を行うことはできません。

(1)亡くなった直後の慌ただしい時期のために

「このお寺で葬儀をお願いしたい」、「葬儀を連絡してほしい人はこれだけいる」、「この写真を遺影として使ってほしい」など、信仰する宗教を踏まえた葬儀の実現、「相続人が遠方にいるため、まずは施設又は病院から遺品を引き取ってほしい」などの希望は、死後事務委任契約を締結することによって実現することが可能です。

エンディングノートを作成し、今のうちから、どのような最期を希望するか、どのくらいの費用が必要か、具体的に整理してみることも意義があることだと思われます。

(2)次世代の相続人のために

生前に大切に管理してきた財産をスムーズに相続人に引き継いでいくには、遺言が有効です。

「家業を継ぐ子がいる」、「障害を持つ子に多くの財産を渡したい」、「実は生き別れた子がいる」、「代々受け継いできた土地は長男に継がせたい」、「生前活動してきたボランティアに寄付をしたい」など、相続にご本人の意思を反映させたい場合には遺言を作成し、遺言執行者を選任しておくことが良いでしょう。遺言執行者がいれば、相続人全員で行わなければならない手続を遺言執行者一人で済ませることができますので、誰かが協力してくれずに手続が止まってしまう事態を避けることができます。

また、任意後見人に遺言執行者と死後事務受任者を兼任してもらうことによって、相続財産の把握がスムーズに進み、漏れなく相続人に引き継いでいくことができると考えられます。

 

判断能力が低下した後にどのような暮らしをしていきたいか、次世代の相続人にどのような形で財産を引き継いでいきたいか、お一人お一人のご希望を具体化するところからご相談をお受けいたします。是非一度、お気軽にご相談ください。

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