相続で思わぬ借金を負わないために~相続放棄の活用法~

【ケース】

私の父が2か月前に亡くなりました。父の相続人は、子である私のみです。

父は、生前、私に対し、父の財産には土地建物(評価額500万円)及び預貯金100万円があると説明していました。

ところが、先日、突如として銀行から、父に借金が1000万円あり、相続人である私に返済を求めて来ました。また、同時期に、父の遺品を整理していたら、古い株券が出てきて、父の説明にはなかった株式を保有していたことが判明しました。しかし、株式の価値がどれくらいかは不明です。

私はどうすればよいでしょうか。

1 借金も相続の対象になるのでしょうか

相続においては、原則として、プラスの財産(不動産、預貯金等)もマイナスの財産(住宅ローン等の借金、保証人として負った債務等)もすべて対象となります。

そのため、借金の有無の調査等をすることなく亡くなった方(被相続人)の財産を相続してしまうと、思わぬ借金を負うことにもなりかねません。

このような事態を防ぐための方法として、「相続放棄」という手続があります。

2 相続放棄とはどのような手続でしょうか

  1. 相続放棄とは、相続人が、被相続人の財産を相続する権利を放棄する手続です。
    相続放棄をした場合、プラスの財産を相続することはできませんが、マイナスの財産も相続されないため、プラスの財産よりも、マイナスの財産が明らかに多い場合には、相続放棄をすることにより、思わぬ借金を負わされるという事態を回避することができます。
  2. 今回のケースでも、価値が現時点で不明な株式を除けば、プラスの財産が土地建物及び預貯金の合計で600万円であるのに対し、マイナスの財産が銀行からの借金1000万円と、マイナスの財産の方が多くなっています。したがって、株式の価値次第ではあるものの、相続放棄をして、銀行から返済の請求が来ないようにすることが考えられます。

3 相続放棄をするためにはどうすればよいでしょうか

相続放棄をするためには、家庭裁判所で手続を行う必要があります(例えば、他の相続人や被相続人の債権者に、相続放棄をすると述べただけでは、相続放棄として認められません。)。

4 相続放棄の注意点について教えてください

  1. 注意しなければならないのは、相続放棄の手続は、「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」(通常は、被相続人が亡くなったことを知ったとき)から3か月以内にしなければならないということです。この期間を経過すると、原則として、相続放棄をすることができなくなります。
    この3か月の期間は、伸長(延長)してもらうよう家庭裁判所に申し立てることもできます。もっとも、伸長の理由を問わず、必ず延長が認められるわけではありません。財産を調査した上で相続放棄をするかどうか判断するためには3か月では間に合わないことを具体的に主張して、その主張が妥当であると裁判所に認めてもらう必要があります。
  2. 今回のケースでも、被相続人が亡くなってから既に2か月が経過しているため、本来であれば、残り1か月で相続放棄を行うべきか判断する必要があります。
    しかし、残り1か月になってから、被相続人が新たに株式を保有していたことが発覚しており、残りの期間では株式の価値を把握できない可能性があるため、家庭裁判所に期間の延長の申し立てを行えば、これが認められる可能性があります。
  3. なお、3カ月の期間内であっても被相続人の財産を売却するなどの行為をした場合には相続放棄ができなくなるため注意が必要です。

5 最後に

相続放棄は、普段あまり縁がない方が多い裁判所の手続であり、どのように準備を進めたらよいか、不安に思われる方もいらっしゃるかと思います。

また、そもそも相続放棄を選択すべきかどうか判断できない場合もあると思います。

相続放棄の手続について迷ったら、まずは、お気軽にご相談ください。

*相続放棄については、こちらのコラム(「相続放棄と空き家問題」)もご参照ください。

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