相続放棄と空き家問題

1 遺産に関する空き家問題とは、どのようなものなのでしょうか。

亡くなった親の遺産の中に空き家となっている実家が含まれているが、できれば相続したくない、といったご相談が増えています。

特に北海道などの地方の不動産の場合、建物の築年数が経過しているだけでなく、敷地価格も安いために資産価値がなく、建物の解体にも費用がかかる一方、預貯金などの他の遺産も乏しいという理由で、亡くなった方の遺産を相続する権利を放棄する法的な手続(相続放棄)を検討することがあります。

2 相続放棄をした遺産の中に空き家がある場合、どのような問題が生じるのでしょうか。

上記のような場合、相続放棄をした方は、初めから相続人にならなかったものとみなされ、また、相続人となりうる親族全員が相続放棄をした場合には、遺産は原則として国庫に帰属するものとされています(民法239条2項)。

しかしながら、相続人全員が相続放棄することにより、空き家などの遺産が放置されてしまったら、建物の倒壊などにより近隣住民等に迷惑がかかる可能性も否定できません。

そこで民法は、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」(民法940条1項)と定めており、相続放棄した相続人は、遺産の管理義務を負うとされています。

そのため、相続放棄後であっても、空き家の倒壊や損壊によって第三者に損害が生じたりすると、管理義務に基づく賠償責任を問われることになりかねませんので、引き続き空き家を自主的に管理しなければなりません。

3 相続財産管理人の選任の手続について教えて下さい。

上記の管理義務から免れるためには、裁判所に相続財産管理人の選任をしてもらい、相続財産管理人に管理を委ねるという方法があります。

相続財産管理人は、相続人が不存在となった場合などに、利害関係人等の請求に基づいて家庭裁判所により選任がなされます。相続財産管理人は、相続財産を換価し、残余財産があれば国庫に相続財産を帰属させます。

相続財産の管理義務を負う相続放棄後の相続人も、この手続により相続財産管理人に管理を引き継ぐことで、責任から免れることができます。

もっとも、相続財産管理人の選任申立を行うにあたっては、相続財産管理人の報酬等の手続費用をまかなうために、裁判所に予納金を納付する必要があります。この予納金の額は、事案や裁判所によって取扱いは異なりますが少なくとも数十万円以上とされ、相続放棄をした相続人にとっては多大な負担となってしまうため、なかなか利用が難しいという実情があります。

4 空き家問題については、どのように対応したら良いのでしょうか。

以上のように、相続放棄をすれば相続に伴う責任からは全て解放されるかのように思ってしまいますが、空き家の管理責任のように、思ってもみなかった問題に巻き込まれてしまう可能性があります。

このような場合の具体的な解決策については、個々のケースにより異なりますので、相続放棄の手続を進める前に、弁護士によるアドバイスを受けておくのが望ましいと思います。

(弁護士 佐々木貴教)

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。